貧血についてのお話~主に鉄欠乏性貧血について~
女性を中心に、健診結果にて貧血を指摘され受診される方が多くいらっしゃいますが、今回は貧血について、その中でも特に鉄欠乏性貧血について解説します。
貧血とは?
血液中の赤血球の中には、酸素を運ぶ役割をもったヘモグロビンという物質があります。このヘモグロビンの濃度が低くなった状態を貧血と言います。
よく長時間立っていた際に具合が悪くなって倒れたりすると、「貧血になって倒れた」という表現がされる場合がありますが、これは正確には貧血ではなく、「血管迷走神経反射」という自律神経の不調によるものが多く、今回のお話の貧血とは全く別のものです。
貧血の症状
ヘモグロビンは赤血球に乗って体のすみずみに酸素を運ぶ役割があります。このため貧血になると全身の臓器が酸素不足となってしまいます。これにより立ちくらみ、動悸、息切れ、めまい、ふらつきなどの症状が起こります。人によっては頭痛や味覚の異常、爪の変形、「のど」の違和感や飲み込みにくさなどの症状がみられることもあります。
貧血の様々な原因
大きく以下の2つの原因に分かれます。
赤血球がうまく作れなくなる場合
原因として下記が考えられます。
- 鉄やビタミン類(ビタミンB12、葉酸など)の欠乏
- 白血病などの骨髄の病気
- 腎臓の機能低下(腎臓から出される造血ホルモンの減少)
- 慢性炎症(慢性感染症、膠原病などの自己免疫疾患など)
赤血球が体から出たり壊されたり消耗してしまう場合
原因として下記が考えられます。
- 出血(手術や外傷による出血、消化管(胃や大腸など)からの出血、など)
- 溶血性貧血(自己免疫性疾患などで赤血球が破壊される場合、など)
- 肝硬変などの肝疾患
他にも原因は様々ありますが、頻度として最も多いのが鉄の欠乏による鉄欠乏性貧血です。健診で貧血を指摘された際には、まずどのようなタイプの貧血になっているのか、そしてその原因は何かをしっかり診断することが重要です。次に、最も多い鉄欠乏性貧血について解説します。
鉄欠乏性貧血とは
文字通り鉄が欠乏することによる貧血です。健常な人の体の中には約 3~4gの鉄があるといわれています。その3分の2は血液中の赤血球の中にヘモグロビンとして存在し、残りの3分の1は貯蔵鉄として肝臓などに蓄えられています。鉄分が不足してくるとまず貯蔵鉄が動員、利用されますがこの時はまだ症状はありません。貯蔵鉄が尽きてしまうとヘモグロビンがうまく作れなくなり貧血として症状が表れてきます。
鉄欠乏性貧血の診断
鉄欠乏性貧血では採血検査でヘモグロビン濃度の低下、鉄の欠乏、貯蔵鉄の低下の所見があれば診断は容易です。問題となるのは鉄欠乏がなぜ生じたかという原因です。その理由は以下に示すように「がん」などの命に関わるようなものも原因としてあるためです。
鉄欠乏性貧血の様々な原因
鉄が不足する原因は主に以下の3つです。
- 食事からの鉄の摂取不足(偏食、成長期や妊娠期など鉄需要の増加など)
- 消化管からの鉄の吸収障害(胃の手術後など)
- 慢性的な出血による鉄の消耗(胃・大腸がんなどの消化管の「がん」、慢性胃炎、胃・十二指腸潰瘍、過多月経など)
生活歴や年齢、性別、症状などから総合的に原因を診断することになりますが、特に女性では生理(月経)の影響で鉄欠乏貧血となることが多くあります。しかしその中で、見逃していけないのが消化管の「がん」です。
実は、胃がんや大腸がんなどの消化管の「がん」は貧血が始めの症状となることが少なくありません。というのも腹痛や血便などの明らかな消化器の症状は相当病気が進行しなければ出現しないことが多いためです。鉄欠乏性貧血と診断されたら血便や腹痛などの胃腸の症状がある場合はもちろん、お腹の症状が無い場合でも消化管の「がん」の可能性についてきちんとした検査・診断が必要です。
特に貧血に以下の状態が伴う場合には積極的な消化管の精査(胃カメラ、大腸カメラなどの内視鏡検査)が勧められます。
- 比較的強い貧血がある場合
- 繰り返す便秘や下痢、血便(便潜血陽性含む)、胃痛、腹痛などの消化器症状を伴う場合
- 男性(男性は生理が無いため鉄欠乏性貧血は非常にまれ。「がん」を含めた消化管疾患であることが多い)
- 閉経後の女性(男性と同じ理由)
- 家族に胃がん・大腸がんなどの消化管の「がん」の罹患歴がある場合(胃がんの原因となるピロリ菌は家族内で感染する場合あり。大腸がんは遺伝的要因で起きる場合がある)
また、ピロリ菌感染による慢性胃炎も鉄欠乏性貧血の原因となることが知られています。若い女性の鉄欠乏性貧血の場合でも生理による貧血と決めつけずに一度は胃カメラなどの内視鏡検査が望ましいと考えられます。
鉄欠乏性貧血の治療
まずは「がん」や胃潰瘍など特別な原因があればその治療が必要ですが、それらが否定されれば鉄を補充する治療が適応となります。鉄剤の内服治療において、気を付けなければいけない点がいくつかあります。まず鉄剤を内服すると便が黒くなります。また鉄剤の内服で気持ちが悪くなったり下痢をしてしまう方が一定割合でいらっしゃいます。気持ち悪くなりやすい方は飲むタイミングの工夫をしたり、胃薬を併用したりしますがそれでもダメな場合は他の種類の鉄剤に変更したり注射薬を使用したりすることになります。
治療期間については貯蔵鉄まで十分回復するまでの治療が必要です。ヘモグロビンの数値が正常になってすぐに治療を止めてしまうと貯蔵鉄の量が十分でない場合、またすぐに貧血をくり返してしまいます。治療終了後も定期的に採血検査でヘモグロビンや貯蔵鉄の状態をチェックするのが望ましいでしょう。
健診で貧血を指摘されたら
健診で貧血を指摘された方はぜひ一度は医療機関を受診しましょう。
